「iDeCoで運用商品数制限」はやむを得ない。しかし…

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iDeCo(個人型確定拠出年金)で運用商品数制限が議論されています。

これは、社会保障審議会企業年金部会の議論で出てきたもののようです(参考:「資料1 確定拠出年金における運用について」)。

吊られた男さんのブログではこれを取り上げ、「現実論として,規制で縛って利益を守るというところに落ち着くのが無難でしょう」と述べ、運用商品数制限の制限もやむなし、という立場を表明されているようです。

iDeCo (個人型確定拠出年金) の運用商品数制限の是非(吊られた男の投資ブログ(インデックス投資))

基本的には、私の立場もこれに近いのですが、少し気になるところがあったので以下にまとめたいと思います。

1.規制があること自体は仕方がない

前掲の資料では、以下のような行動経済学の知見が紹介されています。

行動経済学の知見によれば、消費者の金融商品購入にあたって、選択すべき項目が増えたり、選択肢が多すぎると、選択自体が困難になることがわかっている。(前掲資料)

これは、心理学者のアイエンガーたちが行った実験などをふまえたものではないかと思います。

この実験では、実際のスーパーを舞台に、(A)6種類のジャムから被験者に試食して1種類を選んでもらう場合と、(B)24種類から試食して1種類を選んでもらう場合で行動がどれくらい違うかを調べたものですが、彼らによると、A・Bのどちらも、試食をしたジャムの数はほとんど変わらないものの、ジャムを買った被験者の数は(A)と比較して(B)がかなり少なかった((B)では買わずに帰ってしまった人が多かった)というのです(以下はその紹介記事です)。

選ぶ楽しさは幸せ?(前編)(たちばな心理学コラム)

つまり、一見、選択肢が多いことは満足度を上げるように思えるのですが、あまり多すぎるとかえって苦痛になり、人々は決断を避けてしまう可能性があるのです。

同様のことは、iDeCoにおける商品選択でも起こる可能性があります。つまり、よほど商品知識が豊富な人でなければ、あまりに選択肢が多い場合、商品選択が面倒なあまりにiDeCoの普及が進まない(あるいは、変な商品を選択してしまってトラブルになる)というシナリオも考えられます。

以下の文は、このことを指摘しているのではないかと思います。

401(k)に関する研究では、運用商品数が増加するほど商品の特性が考慮されにくくなり、結果的に従業員にとって不利な商品選択を行っている可能性が指摘されている。(前掲資料)

したがって、特に、投資の知識が豊富だと必ずしも言えない人に対しては、商品数をある程度絞った方がいいという議論は、私にとってはなんとなく妥当なように思えます。

2.問題は「どのような規制を置くか」

一方で、このような規制としてどんなものが有効か、ということに関しては、注意が必要であるように思います。

具体的には、商品数を制限するなら、それをいくつにするか、また、その中にどんな商品を含めるか、ということです。

たとえば、先述した実験によると、既に「20」では多すぎるわけですから、せいぜい10種類がいいところでしょう。

しかし、複数の運用会社の商品を含めるとすると、商品数が10では、日本・先進国の株式と債券が入ったくらいで終わりになり、新興国株式すら入るのが怪しいのではないでしょうか。

場合によっては、各社のバランスファンドを並べて終わるかもしれませんし、最悪なのは、商品数が少なければ、利用者が選ぶ可能性も高いだろうと販売会社が考えて、高コストのアクティブファンドばかりになってしまうことのようにも思います。これでは、知識がない人にも活用できるようにしたつもりが、誰にとっても使いにくく、かつ、不利なものになってしまいます。

3.一定の条件の下で制限を解除するしくみにしたらどうか?

個人的には、これを解決するためには「一定の条件の下で制限を解除する」しくみにするのが妥当ではないかという気がします。

つまり、あまり経験がない人がiDeCoを利用する場合は、日本・先進国の株式・債券のインデックスファンド、またはバランスファンドのような比較的扱いやすいもの(初心者用)だけに商品を制限し、投資歴が長い人(たとえば3年以上)はそれ以外の商品(経験者用)を選択できるようにする、というような方法が考えられます。

私自身は、投資歴は自己申告で書面に記入する形でもいいと思いますし、実際にiDeCoの口座を開設してから3年で限定解除、というやり方でもいいと思っています。

もちろん、前者の場合は、販売会社が無理やり利用者に書面を出させたりする心配もないわけではありませんが、「投資歴が○○年以上」であることを本人から必ず確認してもらうことを義務付けるなど、制度設計である程度カバーできるのではないかと感じます。

また、当然、「初心者用」のファンドにコストが高いものは含めない方がいいでしょう。インデックスファンドを中心にする方が無難かもしれませんが、ここは機械的に信託報酬率が1%以下、などと基準を決めてしまってよいように思います。

「経験者用」の方には、4階建てや毎月分配型など制度の趣旨に合わないもの「以外」はアクティブファンドもある程度広く認め、自分の責任で商品を選べるようにしてもよいと思います。

4.とにかく、iDeCoの良さが活きるような制度設計を

自助による老後のための資産形成を支援するという趣旨を考えると、個人的には、投資経験が浅い人にも使いやすいようにiDeCoの制度を整えることには賛同します。

ただ、それが、かえって制度を使いにくくすることになるのなら、本末転倒ではないかと思います。

もちろん、上記3の意見には穴もありますし、これがベストだと言うつもりはありませんが、iDeCoが投資経験が浅い人にも、ある程度経験がある人にも使いやすい制度になることを願ってやみません。

なお、上に書いたアイエンガーたちの実験は、以下の書籍でも紹介されています。この本は日米の選択に関する考え方の違いなど、面白い話題がいろいろ書かれているので、ご興味があるかたはぜひご覧ください。

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